火星探査車を描いた本と聞くと、まず宇宙や科学の知識を伝える本を思い浮かべるかもしれません。けれど、『キュリオシティ / CURIOSITY』は、そうした説明だけにとどまらない魅力を持った一冊です。
この本は、火星探査車「キュリオシティ」を題材に、宇宙の広がりやを感じ、自然を観測することや記録することの意味と、人間が今まで、世界をどう理解しようとしてきたのかという営みついて、静かに考えを深めてくれます。読み進めるうちに、火星という遠い場所の話が、いつのまにか「世界を見つめるとはどういうことか」という、より大きな問いにつながっていきます。
ページには、火星をはじめ惑星や銀河、探査車、観測装置だけでなく、ロケット、発射台、地上の都市のような風景までが、幾何学的で美しいイラストで描かれています。そのため、物語の筋を追っていくというよりは、ひとつひとつのページに立ち止まり、見つけ、考え、親子で言葉を交わしながら読むのがよく似合います。声に出して読む本であると同時に、眺めて対話する本でもあります。
どんな本なのか:概要
『キュリオシティ / CURIOSITY』は、宇宙を「遠い世界」として眺めるだけでなく、人がその遠さにどう手を伸ばし、どう見ようとし、どう考え、どう形にしてきたかを感じさせる本です。
子どもにとっては、「火星ってどんなところだろう」「どうして人はそんな遠い場所を知りたいのだろう」という、素朴で力強い好奇心の入口になります。そして大人にとっては、知識を与えるためだけではなく、世界を知ろうとする姿勢そのものを手渡せる本でもあります。
読み聞かせに向くかどうかで言えば、わかりやすい筋立てを追う物語絵本とは少し違います。けれど、だからこそ、子どものつぶやきや発見を受け止めながら、一緒に考える時間を作りやすい本です。小さな子には絵を中心に、小学生以降にはことばと絵の両方から、長く付き合っていける一冊だと思います。
この本で子どもが体験できること
- 火星探査車になったつもりで、まだ誰も歩いていない場所を進んでいく感覚を味わえます。
- 宇宙を、ただ遠くて不思議なものとしてではなく、「調べる」「観測する」「考える」対象として感じられます。
- 図面や模型、建築や都市のページを通して、世界には誰かの工夫や設計があることに気づけます。
- 宇宙から都市へ、都市から暮らしへと、視点の大きさが行き来するおもしろさを味わえます。
- わからないものに出会ったときに、すぐ答えを求めず、自分なりに想像し、考え、言葉にする体験ができます。
この本で育つもの
知性
宇宙、惑星、探査、観測、建築、都市、インフラなど、ひとつの本の中からさまざまな関心が芽生えます。知識を詰め込むというより、「もっと知りたい」という気持ちを育てる本です。
情緒
自分の知らないものを、怖がるだけでなく丁寧に見つめる姿勢が育ちます。遠い宇宙を見つめる営みの奥には、自分の外にあるものへ心を向けるまなざしがあります。
行動
すぐに意味がつかめないページがあっても、それを投げ出さずに見つめてみる力が育ちます。未知のものに出会ったとき、わからないままでも一歩近づいてみる勇気を支えてくれます。
楽しさ・ユーモアー
探査車のかたち、装置の見え方、都市の構図のおもしろさには、親子で自由に見立てて楽しめる軽やかさがあります。「これ、何に見える?」という遊びのような会話も自然に生まれます。
ことば・思考へのつながり
この本は、説明を受け取るだけでは終わりません。見たものを自分のことばで言い直し、考えたことを少しずつ話していく読み方ができます。観察する力、比べる力、想像をことばにする力、まだまとまらない思いを口にする力を、ゆっくりと支えてくれる本です。
読み聞かせを深める問いかけ
- この探査車は、どんな気持ちで進んでいるように見える?
- きみが火星に行ったら、いちばん最初に何を見たい?
- このページで気になる形はどれ? どうしてそう思った?
- 宇宙の絵と街の絵って、似ているところがあるかな?
- 人はどうして、こんな遠い場所まで知りたくなるんだろう?
- もし自分で探査車をつくるなら、どんな働きをさせたい?
- わくわくしたページと、不思議だったページはどれ?
- 世界を知るって、見ることかな、考えることかな、それともつくることかな?
正解を言い当てるためではなく、感じたことや考えたことをことばにしてみるための問いとして使うと、この本の魅力がよく生きます。
読み方のポイント
この本は、文章を急いで追うより、まず絵をゆっくり見る読み方が向いています。惑星、探査車、図面、建物、街並みなど、ページごとに主役が少しずつ変わるので、「今日はこのページをじっくり見てみよう」と決めて読むのもよいでしょう。
大人が読むときは、説明しすぎないことも大切です。「ここ、気になるね」「この形、おもしろいね」と、少し余白を残して言葉を置くと、子どもも入りやすくなります。子どもが立ち止まったときには、「わからなくても大丈夫」「気になるって大事だね」と受け止めてあげると、この本との付き合い方がぐっと豊かになります。
こんな親子におすすめ
- 宇宙や惑星、探査機にひかれる子
- 乗り物、機械、模型、工作、設計図が好きな子
- 図鑑だけでも物語だけでもない本を探している親子
- 絵を見ながら、たくさん会話する読み聞かせをしたい家庭
- 小学校入学以降も読み聞かせや共読を続けたいと考えている大人
- デザイン性の高い本を子どもに自然に手渡したい人
筋立てがはっきりした絵本を好む子には、最初は少し抽象的に感じられるかもしれません。その場合は、全部を理解しようとせず、好きなページを選んで眺めるところから始めると入りやすくなります。
読み聞かせから次の読書へつなげる導線
この本のよさは、読み終えたあとに興味がいくつもの方向へ広がることです。宇宙に心が向いた子には、惑星図鑑や宇宙飛行士の本、火星探査の科学読み物へ。機械や設計にひかれた子には、のりもののしくみ、建築絵本、模型や設計図の本へ。街や港、劇場のページが印象に残った子には、都市のしくみやインフラを扱う本へと、自然につなげることができます。
絵本から図鑑へ、図鑑から読み物へ、読み物から自分で調べる読書へ。この本は、その橋渡しをしてくれる一冊です。
あわせて広げたい体験・贈りたいもの
- 月や星を見るための双眼鏡や天体望遠鏡
- 太陽系ポスターや惑星模型
- 探査車やローバーの模型、ブロック
- 紙でつくる立体工作や簡単な建築模型
- 科学館、プラネタリウム、宇宙関連の展示
- 地図や街の断面図、建物の図面を眺める時間
本の世界を、見る・つくる・確かめる体験へ自然につなげやすいのも、この本の魅力です。
まとめ
『キュリオシティ / CURIOSITY』は、火星探査を題材にしながら、宇宙だけでなく、観測、設計、都市、そして人が世界を理解しようとする営みへと静かに視野を広げてくれる一冊です。
親子でページをめくりながら、「遠い宇宙」と「自分たちの暮らし」が、実はどこかでつながっていることに気づくかもしれません。知識を増やすためだけではなく、世界を見つめる時間そのものを親子で分かち合うために、手渡したい本です。


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