自然、歴史、出来事から大切なことを学ぶ力を育てる本
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1914年、カナダの森で実際に起きた山火事の話です。炎に追われた人間と動物たちが、湖の中で肩を並べて立つその場面は、読み終えたあとも長く心に残ります。「人間と動物をへだてていたものが、あの間だけは、なくなっていた」 この一文を、ぜひお子さんと一緒に受け取ってください。
どんな本なのか
舞台は1914年、カナダの深い森の中にある小さな街・ゴーガンダ。5歳の少年アントニオは、湖のほとりで母親が営むホテルに暮らしています。近くに同年代の子どもはおらず、友達は料理人や大工、猟師や木こりといったホテルで働く大人たちです。3階の大部屋には、何ヶ月も森に入って働く男たちが集まり、夜になるとトランプをしたり、楽器を奏でたり、手柄話に笑い転げたりしていました。
そんなアントニオの日常を一変させたのが、ある夏の山火事です。乾ききった森に火が燃え広がり、街の人々は湖へと逃げ込みます。そして、炎と煙の向こうから次々と現れたのは、森に隠れていたはずの動物たちでした。キツネ、ウサギ、オオカミ、シカ、ヘラジカ、そして熊まで。天敵同士であるはずの動物たちが、人間のそばで肩を並べて湖に立つ。その光景は、幼いアントニオの胸に一生消えない記憶として刻まれます。
「人間と動物をへだてていたものが、あの間だけは、なくなっていたのです。」
非常事態の中で、捕食者と被食者、人間と野生動物という「隔て」が消えた瞬間。それは恐怖の記憶でありながら、同時に深い平和の記憶でもあります。
作者レベッカ・ボンドは、この物語を「昔カナダであった本当の話」として描いています。実話を丁寧に絵本の形に仕立てた作品であることが、読後の余韻をさらに深くします。大人が子どもに「これは本当にあったことなんだよ」と伝えながら手渡せる本です。
この本を読んで子どもは何を感じるのか
- アントニオへの親しみ:友達が大人しかいない環境、ホテルの大きな建物の中の小さな部屋で寝るアントニオの姿に、子どもは自分の「小さな世界」を重ねるかもしれません。
- 山火事の場面での緊張と恐怖:炎が「怪物のように吠え立て」、空が真っ暗になっていく描写は、子どもの想像力を強く揺さぶります。
- 動物たちが現れた瞬間の驚きと感動:いつも森の奥に隠れていた動物たちが、炎に追われて姿を見せる場面は、物語のクライマックスとして強く心に残ります。
- 「隔て」が消えた静けさへの不思議な感覚:オオカミとシカが隣に立ち、人間とヘラジカが体を触れ合わせて湖に立つ場面は、子どもにとっても「ふしぎ」「こわい」「きれい」が混ざり合う複雑な感情体験になるでしょう。
- 記憶が残ることへの気づき:アントニオがその後10年間ゴーガンダで暮らしながらも、あの夏の記憶を忘れなかったという結末が、子どもに「大切な記憶」というものを初めて意識させるきっかけになるかもしれません。
この本は、大型書店の絵本コーナーや図書館でも見かけますが、手元に置いて繰り返し読みたい一冊です。特に、読み聞かせの後に「あの場面どうだった?」と話しかけたくなるような本は、借りるより持っていると自然に手が伸びます。

森のおくから: むかし、カナダであった ほんとうのはなし
この本で育つもの
🌿 知識
カナダの森に生きる動物たち(オオカミ、ヘラジカ、ヤマアラシ、フクロネズミなど)の名前と存在を、物語の文脈の中で自然に知ることができます。また、1914年という時代のカナダの暮らし、ホテルの仕事、猟師・木こり・鉱夫といった職業についても、アントニオの目を通して具体的に触れることができます。山火事がどのように広がり、人々がどう対処したかという実際の出来事への理解も育ちます。
💛 情緒
「隔て」が消えた瞬間の静けさと不思議さ。恐怖の中にある美しさ。普段は見えないものが、極限の状況でだけ姿を現すという体験は、子どもの情緒の幅を静かに広げます。また、アントニオが大人の世界の中でひとり観察し、記憶を蓄えていく姿は、感受性の豊かな子どもの共感を呼ぶでしょう。
🌱 行動
この本は直接的に「こうしなさい」とは言いません。しかし、アントニオが森の動物の痕跡を丁寧に読み取り、動物たちの事情を理解しようとする姿勢は、自然を観察する態度の手本になります。読後に「外に出て自然を見てみたい」という気持ちが生まれれば、それがこの本の行動への贈り物です。
😊 ユーモア/楽しさ
ユーモアの要素は強くありませんが、3階の大部屋での男たちの賑やかな夜の描写や、アントニオが客室を覗き込む場面には、子どもが思わずくすりとするような温かみがあります。
📖 ことばの力・思考力・読解力・他者理解
「人間と動物をへだてていたものが、あの間だけは、なくなっていたのです」という一文は、読解力のある子どもにとって深く考える言葉になります。「隔て」とは何か、なぜなくなったのか、を親子で話し合うことで、他者理解と抽象的な思考力が育ちます。
読み聞かせを深める親子の会話
読み聞かせの後、少し間を置いてから、こんなふうに話しかけてみてください。
「お母さんも、こわいことがあった時に、ふだんは仲良くない人と一緒にいて、なぜかほっとしたことがあるよ。あの山火事の時の人たちも、そんな気持ちだったのかもしれないね。」
- アントニオは、湖の中で動物たちを見た時、どんな気持ちだったと思う?こわかったかな、それともちがう気持ちもあったかな?
- もし自分がアントニオだったら、オオカミが隣に来た時、どうしていたと思う?
- アントニオは、ふだん動物たちが森の奥に隠れているのを知っていたね。あなたの近くには、どんな生き物が隠れていると思う?
- 山火事が消えて、アントニオが自分の部屋に帰って眠った時、どんな夢を見たと思う?
- アントニオはこの出来事を10年たっても忘れなかったって書いてあったね。あなたには、ずっと忘れられない出来事はある?
- 動物たちは、火が消えたあとどこへ帰っていったと思う?また森の奥に戻ったのかな、それとも……?
読み方のポイント
📖 読み聞かせに要する時間:概ね10〜15分程度
ゆっくり丁寧に読んでも、急がずに読み進められる長さです。場面ごとに絵をしっかり見せながら読むことをおすすめします。
どの言葉を大切に読むか
山火事が広がる場面「火は怪物のように吠え立て、パチパチ花火を撒き散らし」は、少し声のトーンを上げて緊迫感を出してください。そして、動物たちが湖に入ってくる場面からは、逆にゆっくりと、静かに、一種の荘厳さを感じさせるように読むと、対比が生まれます。最後の一文「人間と動物をへだてていたものが、あの間だけは、なくなっていたのです」は、ひとつひとつの言葉を噛みしめるように、間を取って読んでください。
絵・構図・画風・雰囲気について
炎と煙の中から動物たちが現れる場面の絵は、橙と黒の強いコントラストの中に、生き物たちのシルエットが浮かび上がる構成になっています。炎の激しさと、湖に集まる生き物たちの静けさの対比が、視覚的にも強く印象に残る画面です。
また、全体的に文字と余白のバランスが静かで、物語の余韻を大切にした構成が感じられます。絵を見せながら「ここに何がいるか探してみて」と声をかけると、子どもが自分から絵の中に入っていきます。
ページをめくる時の留意点
山火事の場面から動物が現れる場面へのめくりは、少し間を置いてから。子どもが「次は何が出てくるんだろう」という期待を持つ時間を作ってあげてください。
子どもが立ち止まった時の受け止め方
「こわい」と言ったら、「そうだね、こわいね。でもアントニオはちゃんと見ていたね」と受け止めてあげてください。感情を否定せず、アントニオが経験したことと同じ場所に子どもを置いてあげることが、この本の読み聞かせの核心です。
こんな親子におすすめ
- 🌲 自然や動物に興味がある子どもと、その親
- 📜 「これは本当にあった話なの?」と聞いてくる、事実への好奇心が強い子ども
- 🤝 異なる存在が共存することへの感覚を、早い時期から育てたい親
- 🔥 少し長めの物語でも集中して聞けるようになってきた、年長〜小学校低学年の子ども
- 🌍 カナダや北米の自然・歴史・文化に興味がある、あるいは広げたい親子
- ⚠️ 山火事の描写は迫力があります。感受性の強い子どもには、「でも最後はみんな助かるよ」と先に一言添えてから読み始めると安心です。
次に読むなら
自然・動物の世界をもっと知りたい子どもへ
- 『どうぶつのおかあさん』(小森厚・文、薮内正幸・絵)
- 『森のなか』(マリー・ホール・エッツ)
- 図鑑『日本の野生動物』(学研)
「共存」「異なる命」というテーマをさらに深めたい子どもへ
- 『スイミー』(レオ・レオーニ)
- 『きつねのおきゃくさま』(あまんきみこ)
- 児童書『大造じいさんとガン』(椋鳩十)
歴史・実話ベースの物語に興味が出てきた子どもへ
- 『ちいさいおうち』(バージニア・リー・バートン)
- 『大きな森の小さな家』(ローラ・インガルス・ワイルダー)
読み聞かせを進化させる体験・贈り物
- 🌲 森林公園や自然観察会への参加:動物の足跡や巣の痕跡を探す体験は、アントニオが森でしていたことそのものです。
- 🔭 双眼鏡や観察ルーペ:野鳥観察や虫の観察に使える道具を一緒に持ち歩くと、「森の奥」への興味が広がります。
- 📷 自然写真集:カナダの森や野生動物の写真集を図書館で借りてみると、物語の舞台が立体的に見えてきます。
- 🃏 動物カードゲームやトランプ:3階の男たちがトランプをしていた場面にちなんで、動物図鑑カードや神経衰弱を一緒に楽しむのもよいでしょう。
まとめ
『森のおくから』は、1914年のカナダで実際に起きた出来事をもとにした絵本です。極限の状況の中で、人間と野生動物が湖に並んで立つという静かで圧倒的な場面は、子どもの心に長く残ります。読み聞かせの後、「あの間だけは、隔てがなくなった」という感覚を親子で静かに分かち合う時間は、言葉にしにくい何かを、確かに手渡してくれるでしょう。大人が「子どもに伝えたい」と思う本は、時に言葉ではなく、こういう一冊の形をしています。
『森のおくから』は、一度読んで終わりにするには惜しい絵本です。季節が変わるたびに、子どもの受け取り方も少しずつ変わっていきます。手元に一冊置いておくと、ふとした時に開きたくなる本になるかもしれません。

森のおくから: むかし、カナダであった ほんとうのはなし


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