「自分自身の心と向き合う力」を育てる本
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何度描いても消えてしまう自画像に、それでも向き合い続けた女の子の物語。『わたしを描く』は、「うまくいかなくてもやめられない」という子どもの切実な気持ちに、静かに寄り添う一冊です。絵を描くことが好きな子どもにも、何かに一生懸命な子どもにも、ぜひ読んであげてほしいと思います。
どんな本なのか
絵を描くことが大好きな女の子・ウロ。「雨」に「露」と書いてウロと読む、その名前には、どこかひそやかな美しさが宿っています。父親の深い期待を背負いながら、ウロは初めての自画像に挑みます。苦労して選んだ特別なキャンバス——それは、著名な画家・西窓先生が注文していたものの、先生が突然亡くなったために手放されたものでした。
ウロはそのキャンバスに、何度描いても翌朝には絵の具が流れ落ち、ドロドロになってしまうという不思議な経験をします。それでも諦めず、何回も描き続ける。その姿は、ただ「上手に描きたい」という欲求を超えて、自分自身と向き合う深い行為へと変わっていきます。
「お前が書かなかったら、ただの布切れだよ。お前の筆で芸術作品に変えられるんだ。キャンバスも、きっと喜ぶさ。」
——父さんの言葉より
これは絵の話であると同時に、子どもが自分の力を信じることへの、静かな励ましです。作は中国の著名な児童文学作家・曹文軒(ツァオ・ウェンシュアン)、絵は国際的に高く評価されるイタリア在住の絵本作家・スージー・リーによるもので、言葉と絵がそれぞれ独自の深みを持ちながら、一冊として見事に響き合っています。
大人がこの本を子どもに手渡したくなるのは、「諦めないこと」を説教するような物語ではないからです。ウロが何度も失敗し、泣きながら描き続け、母親にキャンバスを捨てられ、それでもゴミ置き場を探し回る——その一連の姿が、子どもの胸に静かに届く物語です。
この本を読んで子どもは何を感じるのか
- 「ウロって、わかる」という共感——うまくいかないのに、やめられない。そのもどかしさと執着は、子どもが日常の中で感じる感情とつながります。
- キャンバスへの不思議な感情——まるでキャンバス自体が意志を持っているかのような描写に、子どもは引き込まれます。「どうして消えてしまうんだろう」という疑問が、最後まで読む力になります。
- 母さんへの怒りと、その裏にある愛情——キャンバスを捨てた母さんに怒るウロの気持ちと、草むらに隠していた母さんの行動の意味を、子どもなりに感じ取ります。
- 「花の服を着せる」という行為の美しさ——毎回違う花柄の布をかぶせるウロの習慣に、子どもはどこか詩的なものを感じるでしょう。
- 朝日の中のウロの笑顔——最後のページの静けさと光は、言葉以上のものを子どもの心に残します。
この本で育つもの
🎨 知識
絵画制作のプロセス(キャンバス、絵の具、イーゼル、自画像)について、物語を通じて自然に触れることができます。「雨露麻」というキャンバスの素材や、絵描きの世界の雰囲気も伝わってきます。
💛 情緒
何度失敗しても諦めない粘り強さ、自分の作品への一途な愛着、親の期待と自分の意志の間で揺れる感情——これらが丁寧に描かれており、子どもの感情の語彙と奥行きを育てます。また、母親が表面上は捨てたように見せながら、実は草むらに隠していたという場面は、愛情の複雑さを静かに伝えます。
🌱 行動
「うまくいかなくても、自分が信じたものに向き合い続ける」という姿勢が、物語全体を通じて体現されています。説教ではなく、ウロの行動そのものがモデルになっています。
✨ ことばの力・思考力・読解力
「花の服を着せる」「キャンバスのウロに着せるのか、キャンバスに着せるのか」というやりとりのように、詩的な表現と深い問いが随所に現れます。読解力だけでなく、言葉の奥を想像する力が自然と育まれます。
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『わたしを描く』は、書店や図書館でも手に取れる機会が増えてきましたが、手元に置いて繰り返し読みたい一冊でもあります。Amazon・楽天・Yahoo!ショッピングでもお求めいただけます。

わたしを 描く
読み聞かせを深める親子の会話
読み聞かせの後、少し間を置いてから、こんなふうに話しかけてみてください。まず、大人から一言。「お母さん(お父さん)もね、うまくいかなくて何度もやり直したことがあるよ。でも、やめなくてよかったって思ったことがある。」——そんな自分の話を少し添えてから、子どもへの問いに移ると、会話が自然に広がります。
気持ちをたどる問い
- ウロが何度描いても絵が消えてしまったとき、どんな気持ちだったと思う?あなただったらどうする?
- キャンバスがなくなったとき、ウロはゴミ置き場を探し回ったね。あなたにも、そこまでして取り戻したいものってある?
登場人物への共感を促す問い
- お母さんがキャンバスを捨てたのは、どうしてだと思う?ウロのことが嫌いだったから?それとも……?
- 父さんはキャンバスに向かって「お前はウロの良さがわかっていない」と言ったね。父さんはウロのことをどう思っていたんだろう?
暮らしや現実につなげる問い
- あなたが今、「うまくいかないけどやめたくないこと」って何かある?
- ウロは毎回、違う花柄の布をキャンバスにかけていたね。あなたなら、どんな布を選ぶ?
読み方のポイント
⏱ 読み聞かせに要する時間:約15〜20分
文章量はやや多めで、小学校低学年以上を想定した読み聞かせに向いています。年長さんでも、集中力があれば楽しめます。
どの言葉を大切に読むか
父さんの「お前が書かなかったら、ただの布切れだよ」という言葉は、ゆっくりと、一語一語を丁寧に読んでください。ウロが泣きながら「これじゃなきゃダメなの!」と叫ぶ場面も、感情を込めすぎず、静かに、しかし確かな強さで読むと、子どもの心に届きます。
絵・構図・雰囲気について
スージー・リーの絵は、余白を大切にした構成で、描かれていない空間にも意味が宿っています。表紙では、キャンバスに向き合う少女の姿が中央に置かれ、絵の具の色彩が静かに広がっています。自画像が完成した場面では、絵の中のウロと現実のウロが並ぶような構図が印象的で、「描く」という行為の不思議さが視覚的に伝わります。8人目のウロを描く場面では、線に迷いがなく、夢中になっている様子が筆致からも感じられます。
ページをめくるときの留意点
キャンバスがドロドロになっている朝の場面は、子どもが驚く場面です。めくる前に少し間を取り、「さて、朝になったら……」と声のトーンを落としてからめくると、衝撃が物語として届きます。
音読の響きとリズム
「雨露にさらして作られた、雨露の麻です」「私の名前とおんなじ」というやりとりは、ウロと店員の声を少し変えて読むと、子どもがにっこりします。全体的にゆったりとしたテンポで、急がずに読むことをおすすめします。
子どもが立ち止まったときの受け止め方
「どうして絵が消えちゃうの?」と聞かれたら、「不思議だね。どうしてだろうね」と一緒に考える姿勢で。答えを急がず、疑問を持ったまま読み進めることが、この物語の楽しみ方のひとつです。
こんな親子におすすめ
- 何かに一生懸命取り組んでいる子どもを持つ親——習い事、工作、絵、スポーツ、何でも。「うまくいかないけど続けたい」という気持ちに、この物語は静かに寄り添います。
- 「自分らしさ」を探し始めた子ども——小学校に入り、友達と比べることが増えてきた頃に、自分の内側に向き合う力を育てる一冊として。
- 読み聞かせから読書習慣へ移行したい親子——文章量と物語の深みが、絵本から児童書へのちょうどよい橋渡しになります。
- 絵や芸術に興味がある子ども——画材、キャンバス、自画像という題材が、絵を描くことへの関心をさらに深めます。
- 親子の対話を大切にしたい家庭——読後に自然と「あなたはどう思う?」という問いが生まれる構造になっています。
⚠️ 配慮点:ウロが何度も失敗し、泣き続ける場面が続きます。感受性の強い子どもは、ウロの辛さに引きずられることもあります。「最後まで読んでから話そうね」と声をかけておくと安心です。
次に読むなら
絵と表現の世界をもっと深めたい子どもへ
- 『てん』(ピーター・レイノルズ)——「描く」ことへの一歩を後押しする絵本
- 『フレデリック』(レオ・レオーニ)——芸術と感性の価値を語る絵本
自分自身と向き合うテーマへ
- 『木を植えた男』(ジャン・ジオノ)——ひたむきに続けることの意味を描いた名作
中国の文化・物語の世界へ
- 曹文軒の他の作品(『青銅とひまわり』など)——同じ作者の児童文学へ
読み聞かせを進化させる体験・贈り物
- 🎨 自画像を描いてみる体験——読み聞かせの後、子どもと一緒に自画像を描いてみるのはいかがでしょう。上手に描くことが目的ではなく、「自分を見つめる」時間として。
- 🖼 キャンバスと絵の具のセット——ウロのように本物のキャンバスに絵を描く体験は、物語をリアルに感じさせてくれます。入門用のキャンバスセットは手頃な価格で手に入ります。
- 🏛 美術館や絵画展への訪問——自画像を多く展示している展覧会があれば、「これも自分を描いたんだね」という会話が生まれます。
まとめ
『わたしを描く』は、失敗を繰り返しながらも自分だけのキャンバスに向き合い続けた少女の物語です。「諦めない」という言葉を一度も使わずに、諦めないことの意味を全力で描き切っています。読み終えた後、親子の間にしばらく静かな時間が流れるような、そんな本です。子どもの「やめたくない」という気持ちを、大人が改めて大切に思える一冊として、ぜひ手元に置いていただけたらと思います。
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読み終えた後、もう一度最初のページに戻りたくなるような本です。お子さんと一緒に、ウロの物語をゆっくり味わってみてください。

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