命の大切さに気が付き、他者へのいたわりの心を育てる本
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原発事故によって人が消えた町に、それでも残り続けた牛飼いがいました。売れない牛に、毎日、餌をやり続ける。意味があるかどうかわからないまま、それでも続ける。『希望の牧場』は、正解のない問いと向き合う人間の姿を、子どもと一緒に静かに見つめることができる絵本です。重いテーマながら、牛の愛らしさとユーモアが全体を支えていて、読み聞かせにも向いています。
どんな本なのか
2011年3月11日。東日本大震災と、それに続く原発事故。その日から、福島の牧場に生きた一人の牛飼いの物語です。
放射能に汚染された土地に残された牛たちは、もう市場に出すことができません。売れない牛は、経済的な価値を失います。国は「殺処分」を決め、役人が同意を求めにやってきます。それでも、この牛飼いは首を縦に振りませんでした。
「俺牛飼いだからさ。」
理屈でも、ヒロイズムでも、主義主張でもない。ただ、自分が牛飼いであるという、静かで揺るぎない事実。その言葉が、読み終えた後もずっと、胸の中に残ります。
作・森絵都さんは、児童文学から一般文芸まで幅広く活躍される作家です。本作では実際の出来事をもとに、牛飼いの一人称で語るという形式を選んでいます。荒削りで、でも誠実な語り口が、この物語の重さをそのまま届けてくれます。絵・吉田尚令さんの繊細で静謐な画風が、言葉では語りきれない感情を、色と線でそっと補っています。
大人がこの本を子どもに手渡したくなるのは、「正解のない問い」と向き合う姿を、一緒に見つめてほしいからではないでしょうか。意味があるかどうかわからなくても、それでも続けることの重さ。子どもにはまだ難しいかもしれない。でも、その問いを親子で共有することに、この本の価値があると思っています。
この本を読んで子どもは何を感じるのか
- 「どうして逃げないの?」という驚き。危険な場所に残る牛飼いの選択に、子どもはまず戸惑います。その戸惑いが、「なぜ?」という問いへ育っていきます。
- 牛への親しみと、その牛が「食べられない」という矛盾への違和感。動物が好きな子ほど、この状況のやるせなさを体で感じとります。
- 「意味はあるのかな」という問いへの共鳴。子どもも日常の中で「これって意味あるの?」と感じる瞬間があります。その感覚が、牛飼いの言葉と静かにつながります。
- 春の花、夏のホトトギス、秋の紅葉、冬の雪景色。人が消えた町に、それでも季節が巡る。その描写に、子どもは不思議な安らぎと、どこか切ない気持ちを同時に感じるかもしれません。
- 「餌食って、くそたれて」という繰り返しへの、おかしみと安堵。荒っぽい言葉の中に、生きることへの肯定が宿っているのを、子どもは感覚的に受け取ります。
この本で育つもの
📚 知識
東日本大震災と原発事故が、人々の暮らしや産業にどのような影響を与えたか。放射能汚染とはどういうことか。「殺処分」という言葉の意味と、それが決断されるまでの背景。これらを、物語を通じて自然に知ることができます。
💛 情緒
「正解がない状況で、それでも選び続ける」という人間の姿に触れることで、子どもの中に静かな共感と、深い問いが生まれます。悲しみや怒りだけでなく、「それでも」という気持ちの複雑さを、感情として体験できる一冊です。
🌱 行動
「意味があってもなくてもな」と言いながら、毎日餌をやり続ける牛飼いの姿は、「やり続けること」の価値を、言葉ではなく行動で見せてくれます。子どもが何かを続ける力の、静かな後押しになるかもしれません。
😄 ユーモア/楽しさ
「餌食って、くそたれて、餌食って、くそたれて」という繰り返しに、子どもはくすりと笑います。重いテーマの中に、生き物の愛らしさとおかしみが自然に混ざり合っていて、それがこの本を読み聞かせに向く理由のひとつでもあります。
📖 実際に手にとって読んでみると、絵の静けさと言葉の重さが一体になって届いてくる一冊です。ご購入はこちらからどうぞ。
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読み聞かせを深める親子の会話
読み聞かせの後、少し間をおいてから、こんな言葉を添えてみてください。まず、大人自身の言葉から始めてみましょう。「お母さんもね、うまくいかないことがあっても、やめずに続けていることがあるよ」と、自分の日常と重ねて話してみると、子どもは問いを自分のこととして受け取りやすくなります。
🔵 気持ちをたどる問い
- 「牛飼いのおじさんは、怖くなかったのかな。あなたはどう思う?」
- 「『意味はあるのかな』って、おじさんは何度も考えてたね。あなたは、意味がわからなくても続けたことってある?」
🟡 登場人物への共感を促す問い
- 「もし自分が牛飼いだったら、牛たちを残して逃げる?それとも残る?」
- 「泣く泣く牛を殺した牧場主さんたちのことも、おじさんはわかるって言ってたね。どうして両方の気持ちがわかるんだろうね?」
🟢 暮らしや現実につなげる問い
- 「放射能って、目に見えないよね。見えないものが怖いって、どういう感じだと思う?」
- 「人がいなくなっても、春になれば花が咲くって書いてあったね。それを読んで、どんな気持ちになった?」
読み方のポイント
⏱ 読み聞かせに要する時間:約10〜15分
この絵本は、牛飼いの一人称で語られます。読み手は、語り口を「おじさんの声」として読むと、子どもがぐっと物語に引き込まれます。荒削りで、でも誠実な言葉たちを、ゆっくりと、落ち着いて読んでください。
大切に読みたい言葉
「俺牛飼いだからさ。」という言葉は、何度か繰り返されます。そのたびに、少し間を置いて読むと、言葉の重さが伝わります。「意味があってもなくてもな。」という最後の言葉も、急がずに、静かに届けてください。
絵・構図・画風について
吉田尚令さんの絵は、繊細な色使いと柔らかな筆致が特徴的です。牛の大きさと、牛飼いの小ささの対比が、力強さとともに孤独感を静かに伝えているように見えます。見開きの絵は、言葉を補うものとして、ページをめくった後に少し眺める時間をとると良いでしょう。
ページをめくるときの留意点
「殺処分」「放射能」という言葉が出てくる場面では、子どもの表情を確認しながら読み進めてください。立ち止まりたそうにしていたら、無理に先へ進まず、「どうした?」と一言添えるだけで十分です。
音読の響きとリズム・子どもが立ち止まったときの受け止め方
「餌食って、くそたれて、餌食って、くそたれて」という繰り返しは、リズムよく読むと子どもが自然と笑います。重い場面の後に出てくるこのリズムは、意図的にテンポを上げて読むことで、場の空気が少し和らぎます。
「放射能ってなに?」「殺処分ってどういうこと?」という問いが出たときは、難しく説明しようとしなくて大丈夫です。「目に見えない、体に悪いものが広がっちゃったんだよ」「牛を生かし続けることができなくなって、死なせることを決めたんだよ」と、穏やかに、事実だけを伝えてあげてください。
こんな親子におすすめ
- 東日本大震災について、子どもと一緒に話したいと思っている親子に。難しい言葉を使わずに、あの出来事の一側面を共有できます。
- 動物が好きな子、特に牛や馬など大きな動物に興味がある子に。牛の生態や、牧場の暮らしへの入り口にもなります。
- 「やめたい」「意味がない」と感じやすい子に。正面から励ますのではなく、「それでも続ける」姿を静かに見せてくれる本です。
- 社会の出来事や、大人の世界に関心を持ち始めた小学校中学年以上の子に。低学年でも読み聞かせで十分楽しめますが、内容の深さは中学年以上により響きます。
- 「正解のない問い」を一緒に考えたい親子に。答えが出なくていい。考え続けることの価値を、親子で感じ合える一冊です。
⚠️ 配慮点:「殺処分」「放射能」「死」など、重いテーマが含まれます。子どもの年齢や感受性に応じて、読み聞かせ後のフォローをご準備ください。
次に読むなら
震災・社会の出来事に関心が向いた子へ
- 『3月11日のとき、きみはどこにいた?』(岩崎書店)
- 『ふくしまからきた子』(講談社)
動物や命のテーマに関心が向いた子へ
- 『いのちのひろがり』(福音館書店)
- 動物と人間の関係を描いた児童書へ
「続けること」「意味を問うこと」に関心が向いた子へ
- 森絵都さんの他の作品(『カラフル』など、成長に合わせて)
- 『百まいのきもの』(岩波書店)など、理不尽な状況でも尊厳を保つ物語
読み聞かせを進化させる体験・贈り物
- 🐄 牧場への訪問体験。実際に牛と触れ合うことで、「360頭の餌」という言葉の重さが体感として伝わります。
- 📷 震災関連の写真集や記録映像を、一緒に見る。絵本の世界が、現実の出来事とつながります。子どもの年齢に合わせて選んでください。
- 🔍 「希望の牧場・ふくしま」の活動を調べてみる。本作のモデルとなった実際の牧場です。現在も活動が続いているかどうか、一緒に調べてみることが、社会への関心の入り口になります。
まとめ
『希望の牧場』は、答えの出ない問いを、一人の牛飼いと一緒に抱え続ける絵本です。「意味があってもなくてもな」という言葉は、子どもよりもむしろ、疲れた大人の心に深く刺さるかもしれません。読み聞かせながら、親自身が何かを問い直す時間になることもあるでしょう。重いテーマを扱いながらも、牛の愛らしさとユーモアが全体を支えていて、親子で最後まで読み通せる一冊です。この本を一緒に読んだ夜の静けさが、長く記憶に残る時間になると思っています。
📖 読み終えた後、しばらく言葉が出ないような時間が訪れるかもしれません。それもまた、この本が親子にもたらしてくれるものだと思います。ぜひ、お手元に一冊どうぞ。
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