「命の大切さに気が付き、他者へのいたわりの心」を育てる本
夢をあきらめない力と、命と向き合う誠実さも育つ本です。
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新潟の山奥の小学校に、3頭の子牛が新入生としてやってきます。その出会いが、一人の少女の夢の始まりでした。『夢は牛のお医者さん』は、実在の獣医師・ともみさんの歩みをもとにした絵本です。命をいただくことの意味、夢を持ち続けることの誠実さ——読み終えたあと、親子でしばらく言葉が出なくなるような、静かで深い一冊です。
どんな本なのか
新潟県の山深い集落、冬には3メートルを超える雪が積もる小さな小学校。児童はたった9人。そこへある春、3頭の子牛が「新入生」としてやってきました。
校長先生が考えた、ちょっと風変わりなその試みが、一人の少女の人生を変えていきます。主人公のともみさんは小学3年生のとき、クラスメイトになった子牛・強子(つよし)が下痢で苦しむ姿を目の当たりにし、「私がお医者さんになって治してあげる」と心に決めます。その小さな、でも確かな夢が、やがて獣医師という職業として実を結ぶまでを、この絵本は静かに、丁寧に描いています。
この本の芯を示す一節があります。
「強子くんありがとう。君たち三頭がいたから、私は牛のお医者さんになれたんだよ。君たちは今でも私のクラスメイトだよ」
大人になったともみさんが、かつての子牛を農家の牛舎で思い出しながら呟くこの言葉は、子どもたちとの別れから26年を経てなお、命への感謝と愛情が変わらないことを示しています。
この絵本は、ノンフィクションです。実在の人物・ともみさんの歩みをもとにしたドキュメンタリー映画を原作として絵本化されたもので、作り話の感動ではなく、本当にあったことの重みが全編に漂っています。だからこそ、読み終えたあとに残るものが、ひと味違います。
子どもに手渡したい本、と感じる理由はいくつかあります。牛を「食べるための家畜」と正直に伝えながら、それでも最後まで大切に世話をするという、逃げない誠実さ。夢に向かって高校3年間テレビを見ずに勉強するという、地道な努力。そして、お母さんになった今も牛の喉を撫でる手が変わらないという、命への一貫した優しさ。子どもの心に、何かが静かに刻まれる一冊です。
この本を読んで子どもは何を感じるのか
- 子牛が病気になる場面や卒業式の場面で、涙をこらえながら一緒に泣きたくなるような、切なさと温かさが混ざり合った感情を経験します。
- 「お肉になる牛でも、クラスメイト」という事実に、命をいただくことの意味を、言葉ではなく感覚として受け取ります。
- 夢を持ち続けること、そのために努力することが、遠い話ではなく「自分にもできるかもしれない」と感じられます。
- 牛の喉をこすってやると首を上に伸ばす、という描写に、動物との心の通い合いを感じ、生き物への親しみが深まります。
- ともみさんのお父さんが最初は反対していたのに、いつしか一番の応援団になっていたという流れに、家族のあたたかさを感じます。
この本で育つもの
知識
家畜の獣医師という職業の存在、牛の世話の具体的な内容(ふん掃除・草干し・体重測定など)、乳牛と肉牛の違い、獣医師になるには大学で6年学び国家試験を受けること——子どもがふだん知る機会の少ない「食と命の現場」の知識が自然に入ってきます。
情緒
別れの悲しみを正面から受け止める力。命をいただくことへの感謝と複雑な気持ち。夢を持つことの喜びと、それを諦めないことの誠実さ。動物への愛情と、それを仕事にすることの意味。これらが、説明ではなく物語の流れのなかで育まれます。
行動
「好きなことのためにできることをする」という姿勢が、ともみさんの高校時代の努力として具体的に描かれます。「テレビを見ない」という小さな決断が積み重なって夢に届く、その過程は、子どもが自分の行動を振り返るきっかけになります。
ユーモア/楽しさ
「牛のうんこは臭くない。でもちょっぴり臭いよね。」という素直な一言や、運動会での牛のタイヤ引き競争など、くすりと笑えるシーンがところどころに散りばめられています。重いテーマを扱いながら、読み進めやすい空気が保たれています。
ことばの力・思考力・読解力・他者理解とのつながり
「いただきます」が「命をいただきます」という意味でもあること。売値より高い治療はできないという、ペットとは異なる家畜医療の現実。これらは、子どもが「言葉の奥にある意味」を考える練習になります。
読み聞かせをしながら、「いただきます」の意味をこんなふうに伝えられたら——そう思える場面が、この絵本にはいくつもあります。手元に置いておきたい方は、以下からご確認いただけます。
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読み聞かせを深める親子の会話
読み聞かせのあと、少し間を置いてから話しかけてみてください。まず大人が、自分の言葉で感じたことを話してみると、子どもも話しやすくなります。
「私ね、牛の卒業式の場面を読んでいたら、なんだか胸がいっぱいになってしまって。大事にしてきたものとお別れするって、どんな気持ちなんだろうって、ともみさんたちのことを考えてしまったよ。」
そのうえで、こんな問いかけをしてみてください。
- 強子が病気で苦しんでいたとき、ともみさんはどんな気持ちだったと思う?あなたはそのとき、そこにいたらどうしてあげたかった?
- 「お肉になる牛でも、最後まで大事な友達」って、どう思う?難しいな、って感じたところはあった?
- ともみさんは高校3年間、テレビを見ないで勉強したんだって。「これだけは頑張れる」って思えることがあるといいね。
- 牛の卒業式で、みんなが泣いてしまったのは、子牛たちが本当にクラスメイトになったからかな?
- 毎日「いただきます」って言うとき、この本のことを思い出せるかな?この本を読んで、何か変わりそう?
- もし自分がともみさんだったら、大人になってから強子に何を話しかけたいと思う?
読み方のポイント
読み聞かせに要する時間
概ね15〜20分程度です。文章量はやや多めで、絵本というよりも絵入りの読み物に近い構成です。一度に全部読んでもよいですが、「子牛の入学式」「卒業式」「ともみさんの合格」など、場面ごとに区切って2回に分けて読むのも自然です。
大切に読みたい言葉
「私がお医者さんになって治してあげる。」というともみさんの心の声は、ゆっくり、静かに読んでください。ここが物語の核心です。また、卒業式で読み上げる「卒業証書」の文章は、一頭一頭への呼びかけですので、少し間を取りながら、丁寧に読むと伝わります。
絵・画風・雰囲気について
絵は江頭路子さんによるものです。やわらかく温かみのある色調で、人物と動物が近い距離感で描かれています。子どもと牛の関係性が、絵からもにじみ出るような、静かで親密な雰囲気です。ともみさんが牛の喉を撫でる場面の絵は、言葉以上のことを語っています。ページをめくる前に、少し絵を見せながら「どんな気持ちで撫でてるんだろうね」と問いかけると、子どもが絵の中に入り込みやすくなります。
音読のリズムと間の取り方
牛の卒業式の場面は、感情が高まる箇所です。読み手が感情を抑えながら読むことで、かえって子どもに伝わるものがあります。泣きながら読んでも構いませんが、読み手が感情を整えながら読む姿も、子どもには伝わります。
子どもが立ち止まったとき
「牛がお肉になる」という事実に子どもが戸惑ったり、黙り込んだりすることがあります。そのときは急いで次へ進まず、「そうだよね、難しいね」とそのまま受け止めてください。答えを出さなくていい問いがある、ということを、この本は教えてくれます。
こんな親子におすすめ
- 動物が好きな子ども、特に牛や農家の仕事に興味がある子どもに
- 「将来何になりたいか」を考え始めた年齢の子どもと
- 「いただきます」の意味を、もう少し深く伝えたいと思っている保護者に
- 夢を持つことや努力することについて、説教ではなく物語で伝えたい場面に
- 読み聞かせを通じて、命・食・仕事について親子で話したいときに
- ※「牛がお肉になる」という内容が含まれます。感受性の強い子どもには、読む前に「悲しいと感じることもあるかもしれないけど、大切なお話だよ」と一言添えておくと安心です。
次に読むなら
動物や命への関心が深まったら
- 『いのちをいただく』(西日本新聞社)——食肉解体の仕事をする父親の姿を描いた絵本。命と食の問いをさらに深めます。
- 命の循環を描いた自然絵本
夢や職業への興味が出てきたら
- 獣医さんのお仕事をテーマにした知識絵本・図鑑
- 夢と努力をテーマにした児童向け読み物
農業・食・地域への関心が出てきたら
- 食と農をテーマにした知識絵本
- 地域の農業体験・牧場見学との組み合わせもおすすめです
読み聞かせを進化させる体験・贈り物
- 牧場・農場見学:実際に牛を見て、触れる体験は、この本の世界を一気にリアルにします。体験牧場や観光農場など、親子で訪れられる場所を探してみてください。
- 食卓での「いただきます」の会話:読み聞かせのあと、夕食の「いただきます」のときに「今日の肉は何の動物かな」と話してみるだけで、食への意識が変わります。
- 子ども向け職業体験イベント:獣医師や農業関係の職業体験が含まれるイベントへの参加が、夢を考えるきっかけになることがあります。
まとめ
『夢は牛のお医者さん』は、一人の女性の実話をもとに、命と夢と努力を静かに描いた絵本です。牛との別れ、獣医師への道のり、そして今も変わらない牛への愛情——その一本の筋が、読み終えたあとも長く心に残ります。読み聞かせのあと、親子の間にしばらく静かな時間が流れるような、そんな一冊です。命をいただくことの意味を、言葉ではなく物語で受け取ってほしいと思う方に、ぜひ手渡していただきたい本です。
命と向き合うこと、夢を持ち続けること。この絵本が伝えることは、子どもだけでなく、読み聞かせをする大人の心にも静かに届きます。ご購入・詳細は以下よりどうぞ。


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